コラムColumn
2023.04.05解決事例
無罪判決のご報告
令和5年3月16日,静岡地方裁判所浜松支部において太田が担当していた刑事事件(過失運転致傷)で無罪判決が言い渡され,検察側の控訴がなく確定しましたので,ご報告致します。
1 本件の概要
本件は交通整理の行われていない交差点で,依頼者が一時停止後右折したところ,左方から直進してきた車と衝突し,相手方運転手に重症を負わせたという内容です。
2 捜査機関側の当初の主張
当初,捜査機関側は,相手方運転手の速度が時速約60kmであったことを示す捜査報告書や同内容の相手方運転手による供述調書を作成しておりましたが,独自に入手した防犯カメラ映像を分析した結果,相手方運転手が時速100kmを超過する高速度で運転していることが判明しました。そのため,当初から無罪主張を行い続けました。
3 事件の進行
本件は,第1回公判後,打ち合わせ期日を経て,期日間整理手続に付されました。期日間整理手続では,弁護側が防犯カメラ映像や鑑定書を証拠請求し,依頼者に過失がないこと等を草々に主張しておりました。検察側は補充捜査を行い,訴因変更を二度する等としたため,手続が長期化しておりました。
検察側の捜査によっても,相手方運転手が時速100kmを超過する高速度で運転していることが判明しております。
4 無罪の判断
過失運転致傷罪が成立するためには,過失が認められる必要があります。本件では,依頼者に過失があるといえるためには,「自車が右折するのを危険にするような異常な高速で接近していると状況上容易に認められるような場合」である必要があることが,期日間整理手続において整理されておりました。なお,この過失の有無についての基準は,昭和52年12月7日に最高裁で出された判決の調査官解説を参考に導かれたものです。そのため,公判では,主に依頼者に過失が認められるのかを中心に審理がなされました。
審理の結果,検察側の主張を否定し,無罪判決となりました。
5 最後に
本件は,防犯カメラ映像という交通事故事件でいえば最も重要な直接証拠の評価を捜査機関が誤ったことに起因する起訴だと考えられます。刑事裁判における有罪率が非常に高いことは広く知られておりますが,弁護人としては,起訴された方に本当に犯罪が成立しているのか一から検証しなければならないと改めて思い知らされる事件でした。今後も,初心を忘れずに事件と向き合っていこうと思います。