コラムColumn
2023.12.21個人法務
離婚をするときに決めること ~ペットは分けられない~
夫婦で離婚についてはお互いに納得が出来たとしても,親権,養育費,財産分与など,離婚条件として多くを取り決めなければなりません。
例えば,婚姻中に夫婦でペットを家族に迎えていた場合,離婚時には,夫婦のどちらがペットを引き取るか,その後の飼育費用は誰がいくら負担するのかを決めていかなければなりません。夫婦のどちらも「引き取りたい」となった場合,「別々に暮らすことになっても,定期的にペットには会いたい。」と一方が主張する場合など,話し合いだけでは決められず,大きな紛争に展開してしまうこともあるでしょう。
そんな時,どのように解決していけばよいのか,弁護士が解説します。
1 ペットに「親権」は無い
家族の一員として迎え,我が子同様の愛情を持って暮らしている方が多いかと思います。しかし,現在の法律では,動物は「物」として取り扱うことに決められています。
このため,離婚時にどちらが動物を引き取るかを決めるにあたり,子どもの様に「親権者」を定めることはできません。
同じ理由で,ペットを引き取る側が,もう片方に「養育費」を請求することもできませんし,離れて暮らすことになった側が「面会交流」を求めることは法律上認められていません。
では,離婚後のペットの帰属先,飼育費用の負担金などは,どのように取り決めればいいのでしょうか?
2 ペットは「財産分与」の中で話し合う
ペットが法律上「物」として取り扱われる以上,夫婦の共有財産として取り扱い,「財産分与」の中で分与方法を取り決めていくことになります。
3 どちらが引き取るのか??
ペットをどちらが引き取るかは,親権争いとも変わらない非常にデリケートな問題です。理屈ではどうにもならないところもあり,当事者同士の話し合いでは決まらないということも多くあるでしょう。その場合には,調停・審判の中で,裁判所を介して話し合いを続けることになりますが,愛すべきペットが,今後も最適な飼育環境で継続して暮らせるにはどうすべきかを,客観的に考えてみることも必要でしょう。
どうしても協議で定まらない場合,裁判所から和解案を提示されることや裁判官が財産分与の審判の中で「物」としてどちらかに引き渡しを定める(家事事件手続法154条参照)こともあります。ペットのこれまでの飼育状況,どちらに懐いているか,ペットにとって最適な飼育環境を準備できるのはどちらか,経済的な余裕があるのか,といった事情が主な考慮要素になっていると考えられます。そのため,引き取りを主張する場合には,調停の段階から上記の事実関係についてしっかりと主張し,証拠を準備する必要があります。
この点は,弁護士に一度ご相談ください。
4 引き取る方が決まったら,どのような分与方法をすべきか
財産分与とは,①夫婦共同生活中に形成した実質的共有財産の清算(清算的要素),②離婚後の生活についての扶養(扶養的要素),③離婚の原因を作った有責配偶者に対する損害賠償(慰謝料的要素)の3つの要素から構成されます。
ペットは上記の内,どの要素として取り決めていけばいいでしょうか?
5 清算的財産分与として現物分割する
婚姻中に飼い始めたペットも夫婦が共同生活中に形成した共有財産として所有権の対象になるから,①清算的財産分与の一環として,現物で分与することは可能でしょう。
この場合,ペットを引き取る側が完全な所有者となります。もっとも,ペットの時価が高い場合には,相手方に代償金を支払う可能性が出てきます。金額としては,ペットの時価の2分の1程度の額となるでしょう。
また,ここにいう「所有権」とは,対象物を全面的に支配する権利のことを指し,対象物を自由に使用・収益・処分することができます。このため,ペットを今後も自身の自宅で平穏に飼い続けることができますし,ペットをだれと面会させるかについても,所有権者の意向が尊重されることになります。一方で,ペットの飼育費用についても,管理費用として,原則,全額負担していくことになります。
相手方が納得してくれれば,離婚後に飼育料の一部を支払ってもらうことができますが,その場合は,面会の方法についても取り決め,お互いが互いのペットに対する愛情を理解し,譲歩もしながら公平な分与をしたといえる案を話し合うべきでしょう。
6 扶養的生産分与として分与する
最近の裁判例に,財産分与として,夫婦が同居中から飼育する犬の帰属につき判断するとともに,財産分与の扶養的要素を考慮して,飼育費用を負担させる趣旨で定期金の支払いを命じた事例があります(令和2年9月24日福岡家庭裁判所久留米支部)。
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事案の概要
夫から妻に対し離婚を求め,妻は,夫に対して,夫の離婚請求が認められた場合の予備的な請求として,慰謝料,財産分与及び年金分割を求めました。この夫婦には,同居中に飼い出した犬が3頭おり,夫婦の別居後は,妻が3頭の飼育し,夫は餌代を負担していました。
この犬3頭について,夫は,「財産的価値は無いから財産分与の対象にはならない。しかし,今後も餌代は負担し,散歩の協力もする」と主張しました。これに対し,妻は「財産分与として夫婦共同財産を清算するほか,犬3頭については妻と夫が持分2分の1ずつの共有であり,扶養的財産分与として,今後も夫には,犬の飼育費用を犬3頭が生存する限り支払続けて欲しい」と主張しました。このため,犬3頭の帰属,飼育費用の請求の可否,請求できる場合はその金額も争いになっていました。
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裁判所の判断
裁判所は,この夫婦の財産分与について,犬3頭の問題とは別に,夫と妻の各資産と負債を考慮して,夫に対して清算的財産分与として金員の支払いを命じました。
そして,犬3頭については,夫と妻の共有であると判断し,さらに②扶養的財産分与として,夫に対し,犬の飼育が継続する間,定期金(飼育費用と餌代)の支払いを命じました。
持分の割合については,夫と妻の住居や就業の状況に照らし,夫2:妻1と定めました。具体的な金額については,妻の家賃の半分の金額を1か月の飼育費用,妻が提出した資料から1頭あたりの1カ月分の餌代を認定し,夫に対し,妻が犬3頭全ての飼育を終了するまでの間,1か月の飼育費用の3分の2,各犬の飼育を終了するまでの間,1頭あたりの餌代の3分の2の金員を支払うよう命じました。
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この裁判例のポイント
裁判所が,犬3頭について,清算的財産分与の2分の1ルールを適用せず,扶養的財産分与として処理したのは,夫が犬3頭を引き取ることが困難であったため,事実上,妻が犬の飼育を継続せざるを得なかったところ,犬3頭を飼育するための住居の確保や餌代等の費用の負担が大きく,その全額を妻に負担させるのは不公平であるという価値判断から,扶養の必要性を見出したといえます。
この夫婦の具体的な事実関係に基づき,公平の観点から出された判決ですが,事例的な意義が大いにあります。
7 取り決めのポイント
離婚の際のペットの問題については,裁判所の方針が確立しているわけではなく,例にあげた裁判例のような考え方も新しく判断されたところです。清算的か,扶養的か,いずれにしても,公平な分与方法を取り決めていくことが望ましいですが,所有権を持つのか,共有とするのか,離婚後のメリット・デメリット等,法的な問題は弁護士に一度ご相談ください。