コラムColumn
2023.12.15個人法務
遺言に関する基礎知識
遺言とは
「遺言」とは、文字通り「遺す言葉(のこすことば)」として、自分が死んだときのため、残された遺族や周囲の人に対し、財産の処理など自分の希望を伝えるための書類です。
一般的には「ゆいごん」と読まれますが、法律用語としては「いごん」と読みます。
遺言に書くことができること
遺言には、いろいろな事を書くことができますが、法的拘束力がある(法律上意味がある)記載は、一定の事項となり、主なものは次の通りです。
遺産分割の方法または割合の指定
遺言者の財産を誰にどのように相続させるかを指定します。
遺産分割の指定の内容としては、特別受益の持ち戻し免除として、特別受益(生前贈与)を遺産分割において、計算に入れないよう持戻免除をすることもできます。
遺贈
遺言者の財産を、主に相続人以外の者に贈与することができます。
死後認知
生前、認知していなかった子を認知することができます。
祭祀承継者の指定
遺言者の死後の弔いや、遺言者がしていた祖先の祭祀の承継者を指定することができます。
遺言の撤回、取り消し
以前書いた遺言の内容を撤回、取り消したり、修正したりすることができます。
遺言執行者の指定
遺言記載内容を実現するための手続をする執行者を指定できます。
遺言の形式
遺言は、民法で定められた形式で作成しないと、法律上効力のある遺言とは認められません。民法で定められた遺言の形式は、次の通りです。
公正証書遺言
公証人に依頼をし、公証人に作成してもらう遺言です。遺言の作成には、証人2名が必要になります。
・自筆証書遺言
原則として、全てを遺言者が自筆で記載した遺言です。ただし、遺産目録(遺産の一覧表)については、パソコンなどで作成して印刷したものを添付することも認められています。
また、遺言の本文だけでなく、日付、署名、押印が必須となり、このうち一つでもないと、遺言としては効力を有しません。
・危急時遺言
病気などで死亡の危機があり自筆で遺言を書くことができない場合の遺言となります。3人の証人が必要となり、聞き取った遺言内容を証人1人が筆記した上で、それを遺言者とほかの2人の証人に読み聞かせ、間違いがないことを確認して、3名の証人が署名押印することで作成します。
実務上、ほとんど使われることはありません。
・船舶遭難時遺言
遭難した船舶の中で死亡の危機に陥った場合の遺言方式です。当事務所を含むほとんどの弁護士が実務で取り扱ったことはない遺言です。
遭難時遺言の方式を覚えておくよりも、乗船前にほかの方式で遺言を作成しておくべきです。
どんな人が遺言を書いておくべきか
相続人の争いを防ぎたい方
遺言作成を希望される理由で、最も多いものは、将来、相続人間での相続をめぐる紛争が発生することを防ぎたいという理由です。
相続人間の紛争は、多額の財産がある場合だけ発生するものではありません。たとえば、自宅不動産(1500万円)+預貯金1000万円程度で、相続税もかからない程度の遺産であっても、兄弟姉妹間での紛争が発生する事例は少なくありません。むしろ、遺産が限定的であるからこそ、遺産をどのように分けるかで深刻な対立が発生するケースもあります。
多額の遺産(相続税の支払いが必要な遺産)がある方
一定額以上の遺産がある場合、残された遺族は、相続開始後10か月以内に相続税の支払いをする必要があります。相続人間に深刻な対立がない場合でも、遺産の全容を調査し、誰が何を相続するか話し合いをして、相続・解約手続をしていると、10か月というのはあっという間に過ぎてしまいます。
相続税の支払いが必要な遺産が見込まれる場合には、事前に相続税の試算を行った上で、誰にどのように財産を相続させるかを決めておくことで、遺族の負担軽減につながります。
相続人以外に財産を残したい方
相続人以外に財産を贈与したい場合、あらかじめ財産を遺したい相手と死亡時に贈与するという契約を結んでおくか、遺言を作成して、財産を贈与することを記載しておく必要があります。生前関係があった個人だけでなく、公益法人や社会福祉法人などへの寄付なども可能です。
相続人間の紛争を引き起こす遺言
遺言は、契約書と同様、法律文書となります。自筆証書遺言は、日付・署名・押印さえあれば、形式的には有効となりますが、本文が間違っていたり、あいまいだったりすると、もともと意味がない遺言となったり、内容の有効性をめぐって相続人間で争いとなったりすることもあります。
また、遺言で指定する遺産分割の方法は、原則として自由で、一人の相続人に全ての遺産を相続させるという遺言も可能です。ただ、相続人には「遺留分」といって、相続分の2分の1が最低保証として認められており、他の相続人から遺留分の返還請求を受ける可能性があります。遺留分の請求を受けたときにどうするかといったことを考慮しない遺言もまた、相続人間の紛争を引き起こす遺言となってしまいます。
相続税と遺言の関係
長男には土地を全部、長女には預金を全部というような遺言をした場合、長男が、相続財産とは別に預貯金をもっていないと、土地を売らない限り、相続税の支払いができなくなります。
一定額以上の遺産がある場合、相続税の支払いを考慮して、遺言を作成する必要があります。
遺言の作成
将来、相続人間での紛争を回避したい、相続人に遺産相続で負担をかけたくないという場合には、弁護士に遺言作成を依頼することをお勧めします。
弁護士に依頼する一番のメリットは、他士業と異なり、実際に不備のある遺言に基づく紛争を実際に多く経験しており、「将来の紛争回避」を重視した遺言を作成することができます。また、将来、相続が発生した場合の遺言の執行を含め、包括して業務を依頼することが可能です。
また、当事務所は、税理士業務も取り扱っており、将来の相続税の試算を行い、相続税の負担を考慮した遺言の作成も可能です(相続税の試算については、別途、税務相談料が必要です)。
遺言の作成についての、ご相談・お問い合わせにつきましては、当事務所のお問い合わせフォームよりお願いいたします。